札幌地方裁判所室蘭支部 昭和50年(ワ)224号 判決 1976年11月26日
原告
国田耕平
被告
寺島民芸株式会社
主文
被告は原告に対し、金一六七、五九〇円及び内金一四六、五九〇円に対する昭和四八年一二月四日から右支払済みに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の、その余を被告の各負担とする。
この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告に対し、金四四五、九二五円及び内金三七五、九二五円に対する昭和四八年一二月四日から右支払済みに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
3 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
原告は、次の交通事故(以下、本件事故という。)によつて後記のとおり傷害及び物的損害を受けた。
(一) 発生日時 昭和四八年一二月三日午後二時五分ころ
(二) 発生場所 苫小牧市錦町一丁目二番地先路上
(三) 加害車 普通貨物自動車(室四四さ四四八三号)
右運転者 訴外小林輝芳
(四) 被害者 原告
(五) 事故の態様 原告が普通乗用自動車を運転して、右(二)の場所で信号待ちのため一時停止中、訴外小林輝芳が加害車を運転して後方から進行して来て追突した。
(六) 結果 右追突により、原告は後頭部及び胸部打撲の傷害を受け、原告が運転していた原告所有の右自動車は、後部を破損した。
2 責任原因
被告は加害車の所有者であつて、かつ、訴外小林の使用者である。
訴外小林は、被告の業務に従事中、前方注視義務を怠つた過失により本件事故を惹起したものであるから、被告は民法七一五条、七〇九条、並びに自賠法三条(物的損害を除く。)により、原告の被つた後記損害を賠償する義務がある。
3 損害
原告は、本件事故により、次の損害を被つた。
(一) 休業損害 金一二、六九〇円
原告は、訴外国田商事株式会社に勤務していたところ本件事故による治療等のため三日間欠勤し、一日金四、二三〇円の割合による三日分の給与を得られなかつた。
(二) 諸雑費 合計金一六、六一五円
(1) 初診料(はらだ外科病院) 金七〇〇円
(2) 通院交通費 金一、二九〇円
(3) ガソリン代 金二、六二五円
苫小牧室蘭間往復及び示談交渉のため白老室蘭間往復分
(4) 警察署出頭交通費 金二、〇〇〇円
(5) 示談交渉費用(電話料外) 金一〇、〇〇〇円
(三) 慰藉料 金二〇、〇〇〇円
原告は、本件事故により被つた前記傷害を治療するため、昭和四八年一二月四日から同月一〇日まで、はらだ外科病院に通院した。
(四) 自動車関係の損害 合計金三二五、六一〇円
(1) 修理代 金六八、一二〇円
(2) 全再塗装代 金一三九、八〇〇円
(3) 事故減価(評価損) 金三六、五〇〇円
(4) 右査定料 金四、二〇〇円
(5) 代車使用料 金七八、〇〇〇円
一日金三、〇〇〇円の割合による二六日間分
(五) 弁護士費用 金七〇、〇〇〇円
原告は、昭和五〇年三月に、本件訴訟の追行を弁護士である本訴原告訴訟代理人に委任し、着手金及び報酬として、金七〇、〇〇〇円を支払うことを約した。
4 結論
よつて、原告は被告に対し、右損害合計金四四五、九二五円及びこれから弁護士費用を控除した金三七五、九二五円に対する本件事故の翌日である昭和四八年一二月四日から右支払済みに至るまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。
二 請求原因に対する認否
1、2項の各事実は認める。3項の事実は、(四)の訴訟委任の事実のみ認め、その余は知らない。
第三証拠〔略〕
理由
一 請求原因1、2項の各事実は、いずれも当事者間に争がなく、右事実によれば、被告は原告に対し、本件事故により原告の被つた損害を賠償する義務がある。
二 そこで、原告の被つた各損害につき検討する。
1 休業損害 金一二、六九〇円
原告本人尋問(一回)の結果並びにこれによりいずれも真正に成立したものと認められる甲一、二号証の各記載を総合すると、原告は本件事故により被つた傷害の通院治療並びに本件事故の参考人としての苫小牧警察署への出頭のため合計三日間、勤務先である訴外国田商事株式会社を欠勤し、一日金四、二三〇円の割合による日給月給制の給与を得られなかつたことが認められる。
2 諸雑費 合計金六、〇八〇円
(一) 初診料 金七〇〇円
いずれも成立に争のない甲八、一四号証の各記載並びに弁論の全趣旨を総合すると、原告は、本件事故により被つた傷害の治療のため、はらだ外科病院で治療を受け、初診料として右金員を支出したことが認められる。
(二) 通院交通費 金三八〇円
原告本人尋問(一回)の結果並びにこれにより真正に成立したものと認められる甲一三号証の記載を総合すると、原告は、前記病院への通院のため、タクシー代として右金員を支出したことが認められ、その余については、通院に要したものと認めるに足りる証拠がない。
(三) ガソリン代
前掲甲一三号証の記載並びに原告本人尋問(一回)の結果を総合すると、原告は、本件事故当日、前記訴外会社の社用のため室蘭市から苫小牧市に出張の途中で本件事故に会つたこと、したがつて出張目的を達していないため、出張旅費が支給されず、本件事故現場までの往復のガソリン代は自己負担となつたことが認められるが、右ガソリン代相当額は、特別事情による損害というべきあり、これが被告において予見可能であつたことについては立証がないから、これは被告に請求できる損害とはいえない。
また、右証拠によると、原告は、本件事故後の昭和四八年一二月八日に示談交渉のため、自動車で室蘭市から被告会社のある白老町まで往復したことが認められるが、それに要したガソリン代については、後記(五)の示談交渉費用のところで判断する。
(四) 警察署出頭交通費 金二、〇〇〇円
前掲甲二、一三号証の各記載並びに原告本人尋問(一回)の結果を総合すると、原告は、本件事故の参考人として、昭和四八年一二月八日と同月一三日の二日間苫小牧警察署へ出頭し、その往復の交通費として右金員を支出したことが認められる。
(五) 示談交渉費用 金三、〇〇〇円
前掲甲一三号証の記載並びに原告本人尋問(一回)、被告代表者尋問の各結果並びに前記認定事実を総合すると、原告は、示談交渉のため被告会社に出かけ、電話し、また内容証明郵便を出したことが認められ、原告本人尋問(一回)の結果によるとこれらの費用として金一〇、〇〇〇円以上支出したことが認められるが、これは後記認定のとおり、原告が自動車の破損の修理費用として全部の再塗装代を被告に要求してこれに固執したためであつて、本件訴訟の後記最終認容額及び原告の住所地である室蘭市と被告会社の所在地である白老町の距離を考慮すれば、そのうち金三、〇〇〇円が本件事故の示談費用として相当な金額であるものと認められる。
3 慰藉料 金二〇、〇〇〇円
前掲甲一四号証の記載並びに原告本人尋問(一回)の結果を総合すると、原告は、本件事故により被つた傷害の加療のため一週間の通院を要し、頸部に二週間ほど痛みが残つたことが認められ、これにより原告が被つた精神的苦痛を慰藉するには、右金額をもつて相当とする。
4 自動車関係の損害 合計金一〇八、八二〇円
(一) 修理代 金六八、一二〇円
原告本人尋問(一回)の結果並びにこれにより真正に成立したものと認められる甲四号証の記載を総合すると、原告は、本件事故により破損したその所有にかかる自動車の修理代として、右金員を支出したことが認められる。
(二) 全再塗装代
原告本人尋問(一回)の結果により真正に成立したものと認められる甲五、一二号証、訴外安田火災保険株式会社の社員が昭和四八年一二月三日か四日ころ撮影した右自動車の写真であることに争のない乙二号証の一ないし三並びに原告本人尋問(一、二回)、被告代表者尋問の各結果を総合すると、右自動車は、本件事故により、右後部が若干車体の内側に引つ込んだため、その部分を原型のとおりに打ち出したうえ、他の部分と同じ色に再塗装する修理をする必要があつたこと、塗装には吹付塗装と焼付塗装の二つの方法があつて、焼付塗装の方が光沢及び耐久性にすぐれているが、八割から一〇割も高額であるうえ、破損部分のみならず、車体全部について再塗装しなければならないこと、右自動車のような乗用車の場合は、その製造過程において焼付塗装されているのが通常であること、右自動車は破損部分を打ち出したうえ、その部分(打ち出し部分より若干広く、後車輪の中心から後の部分)を吹付塗装によつて再塗装して修理し、右費用は前項の修理代金に含まれていること、右自動車の車体全部を焼付塗装の方法により再塗装するとすれば、金一三六、八〇〇円の費用を要することを認めることができる。
ところで、自動車の塗装には、防錆及び装飾(美観の保持)という二つの作用があるものと解されるところ、吹付塗装も焼付塗装も前記のとおり光沢及び耐久性においては差があるとしても、いずれも右の二つの作用を有する点においては差異がなく、今日の塗装技術の進歩からみれば、破損部分のみを吹付塗装の方法で再塗装しても、他の部分と比較して、一見して再塗装したことが明白で美観を害する結果となるものとは考えられず、また、焼付塗装をする場合は、破損部分の大小にかかわらず、車体全部につき再塗装することを要し、その費用も高額であることを考慮すると、再塗装しなければならないことによる損害は、原則として、破損部分の吹付塗装に要する費用をもつて相当とし、車体全部を焼付塗装の方法によつて再塗装することは損害の回復の程度を超えるものというべきであり、例外として特殊な塗装技術を施してあるため、破損部分のみを吹付塗装によつて再塗装すると、他の部分との相異が明白となつて美観を害する場合、自動車自体が高価なもので、しかもその価値の大きな部分が外観にかかつている場合、再塗装の範囲が広く、全塗装する場合と比較して費用に大きな差異を生じない場合等に限り、車体全部の焼付塗装による再塗装の費用を損害として認めることができるものと考えられる。なお、破損部分のみを吹付塗装の方法で再塗装した場合、もともと焼付塗装を施されている他の部分と耐久性において差があるため、時間の経過により、色調、色の濃度等に差異が生じることもあろうが、その程度が大で一見して美観を害する程度に至るものとは考えられず、また、時間の経過により、全体として美観が低下することは避けられないと考えられるから、多少の差異が生じるとしても右の見解を左右するものではない。
そして、右掲証拠及び右認定事実によれば、原告の自動車は、ありふれた国産の自動車であつて、使用を開始してから約一年二か月経過し、六、七〇〇キロメートル以上走行しており、再塗装を要する範囲も半分以下であることが認められ、右事実からすれば、原告の自動車の原状回復としての再塗装は、破損部分の吹付塗装で足り、これに要する費用を損害と認めるのが相当というべきであつて、右費用は、前項の修理代に含まれていることは前記認定のとおりであるから、結局、車体全部につき焼付塗装の方法による再塗装をする費用を本件事故による損害として、その賠償を求める原告の請求は理由がない。
(三) 事故減価(評価損) 金三六、五〇〇円
成立に争のない甲一〇号証の記載によれば、原告の自動車は、本件事故により、修理後において時価が修理前より右金額だけ低下したことが認められる。
(四) 右査定料 金四、二〇〇円
成立に争のない甲九号証の記載並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、前項の査定を財団法人日本自動車査定協会札幌支所に依頼し、査定料として右金員を支出したことが認められる。
(五) 代車使用料
原告本人尋問(一回)の結果によりいずれも真正に成立したものと認められる甲六、七、一一号証、前掲甲一二号証の各記載並びに原告本人尋問(一回)、被告代表者尋問の各結果を総合すると、原告はその自動車を仕事に使用していたこと、原告は、本件事故当日右自動車を修理工場に入れたが、被告に損害賠償として車体全部の焼付塗装の方法による再塗装の費用を要求し、その支払の約束があつてから修理するつもりで、修理の依頼はせず、被告に右費用を支払うよう再三にわたつて要求していたが、事故後二週間以上経過した昭和四八年一二月一八日に被告から右費用は支払えないという確答があつたため、修理の依頼をしようとしたところ、年末の繁忙期にかかつたため、二つの修理工場から年内の修理は困難であると言つて修理を断わられ、翌四九年一月一〇日ころ改めて修理を依頼し、同月二二日ころ修理が終わつたこと、そして昭和四八年一二月一六日から昭和四九年一月二日までと、同月一四日から同月二二日までの間の合計二六日間、訴外細川良洋からその自動車を代車として借り受け、一日金三、〇〇〇円の割合による使用料合計金七八、〇〇〇円を同訴外人に支払つたこと、加害車は、本件事故後まもなく修理したが、その破損の程度は、原告の自動車より大きいにもかかわらず、三日間くらいで修理が終わつたことを認めることができる。
以上の事実によれば、原告の自動車の修理依頼が遅延し、修理までに長期間を要する結果となつたのは、原告が被告に対し、損害賠償として車体全部の焼付塗装の方法による再塗装の費用を要求してこれに固執し、被告の確答を待つていたことに専ら原因があり、本件事故後直ちに修理を依頼していれば、年末の繁忙期に入らないで、長くとも五日間くらいで修理を完了していたものと認められ、そうすれば、代車使用の必要はなかつたものと解される。
したがつて、右認定にかかる代車使用期間は、本件事故と相当因果関係のある休車期間とはいえず、原告の代車使用料の請求は理由がない。
5 弁護士費用 金二〇、〇〇〇円
原告が本件訴訟の追行を、弁護士である本訴原告訴訟代理人に委任したことは、当事者間に争がなく、本件訴訟の難易、前記認定にかかる損害額等を考慮すると、原告が支払うべき報酬として金二〇、〇〇〇円が被告に負担させるべき損害額として相当である。
三 結論
以上の次第であるから、被告は原告に対し、本件事故と相当因果関係のある前記二の1、2の(一)、(二)、(四)、(五)、3、4の(一)、(三)、(四)、5の損害合計金一六七、五九〇円及びこれから弁護士費用を除いた内金である金一四六、五九〇円に対する本件事故の翌日である昭和四八年一二月四日から右支払済みに至るまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があることになり、原告の本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九二条本文、八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 中根勝士)